肥満人口は世界規模で増加の一途をたどっています。肥満関連疾患というと糖尿病や動脈硬化性疾患が注目されがちですが、自己免疫疾患、慢性の気道炎症疾患である喘息、がんなどの免疫担当細胞と関わりの深い疾患の発症リスクが高まることも明らかになってきています。千葉大学医学研究院の遠藤裕介特任講師と中山俊憲教授らのグループは、同大学医学研究院の細胞治療内科学横手幸太郎教授のグループと共同で、肥満患者に高発現している脂肪酸合成酵素「ACC1」が自己免疫疾患を引き起こす作用があることを発見しました。
同研究グループは、肥満のマウスのヘルパーT細胞でACC1の発現が上昇していることを見出しました。そこで肥満マウスに実験的自己免疫性脳脊髄炎を発症させ、ACC1の競合阻害剤であるTOFAを投与したところ、病態が改善されました。つまり、ACC1を抑えることにより、自己免疫性の炎症が制御できることが明らかになりました。また肥満の患者で、慢性のステロイド抵抗性気道炎症や自己免疫疾患と密接に関わっているTh17細胞が増加しており、ACC1の発現レベルと相関関係があることが分かりました。さらに、ACC1欠損マウスを用いて、ACC1がTh17細胞分化を誘導する分子メカニズムを明らかにしました。今後はACC1やACC1が制御している脂肪酸合成経路を創薬ターゲットとすることで、肥満関連疾患の治療に役立つことが期待されます。
同研究成果は、2015年7月30日付(米国東部時間)で米国科学誌「Cell Reports」オンライン版に掲載されました。