東京大学 生産技術研究所附属マイクロナノ学際研究センターの野村政宏 准教授、Roman Anufriev氏(ロマン・アヌフリエフ 東京大学特別研究員・日本学術振興会外国人特別研究員)らは5月18日、シリコン薄膜にナノ構造を形成することで熱流に指向性を与え、集熱に成功したと発表した。
熱は固体中を四方八方に拡散するため、特定の方向に熱をより多く流すことはできず、より高度な熱マネジメントを必要とするデバイスなどで、熱流制御への期待が高まっている。しかし、熱に関してはエレクトロニクスとフォトニクスと異なり大きなスケールでの取り扱いが主であり、ナノテクノロジーを積極的に利用して熱伝導を高度に取り扱う研究が始まったのはつい最近のことである。
研究では、シリコン薄膜に規則正しくナノサイズの円孔を配列し、熱の運び手であるフォノンが直線的に移動する構造を形成することで、熱流に指向性を持たせることが可能なことを実証した。そして、フォノンの指向性を利用し、フォノンが一点に集中するよう放射状に空孔を配置してレンズのような構造を形成した結果、熱流を100nm程度のごく狭い領域に集熱することに世界で初めて成功した。
この研究成果は固体中での熱流制御に新しい選択肢をもたらし、フォノンエンジニアリング分野の基礎研究を発展させ、高度な熱マネジメントが望まれる半導体分野への応用が期待できる。半導体などにおける放熱性能の向上やこれまでに意識されていなかった熱流の指向性を考慮して積極利用する構造設計、局所的な熱流や温度分布を必要とする系への利用が考えられる。高度な熱制御は、放熱問題の解決などを通じてエレクトロニクスやフォトニクスのさらなる発展に寄与することも期待できるとしている。
論文情報:【nature communications】Heat guiding and focusing using phononic nanostructures