京都大学高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)のイーサン・シバニア教授らによる研究グループは、優れたガス分離性能を有する「フィルター」を開発した。二酸化炭素の分離・貯蔵(CCS)技術の高効率化・低コスト化を実現するものとして期待される。
地球が今直面している二酸化炭素(CO2)の排出問題。例えば、世界最大の火力発電所から1日に排出されるCO2は、ギザの大ピラミッド12杯分にも達する。この問題を解決する手段のひとつが、固定排出源のCO2を分離・貯蔵するCCS技術だ。
中でも、特殊な膜によってCO2を分離する技術が注目を集めている。しかし、既存の高分子膜を用いたガス分離技術は、処理速度や分離精度が低く、大規模なCO2分離プロジェクトに応用するには、費用対効果の点で問題があった。
そこで研究グループは、「金属-有機骨格体(MOF)」という素材に注目し、このナノ粒子を「PIM-1」という高分子材料に添加した「混合マトリクス膜」を開発。混合条件を調整することで、ガスの処理速度の損失を最小限に抑えつつ、分離精度を大幅に向上させることに成功した。
「MOF」はiCeMS拠点長の北川進教授が、「PIM-1」はマンチェスター大学のピーター・バド教授とニール・マッケオウン教授が、それぞれ開発したもの。これら新素材による革新的な組み合わせは、メソポタミア文明を一変させた「青銅」(「銅」と「錫」の合金)にもなぞらえる。
今回の開発により、大規模なCCSプロジェクトにおいて、大幅なコスト削減への可能性が開けた。低炭素社会の実現へ向け、今後は、産官学一体となって行うプロジェクトの重要性が一層高まるとして、各機関の垣根を越えた連携体制の推進を唱えている。