診断が難しい「難病・希少疾患」に罹患した患者は、正しい診断を得るまでに平均で4~9年を要するとも言われ、“Diagnostic Odyssey(診断をつけるための終わりのない旅)”の間、多くの医療機関を受診し不要な検査や誤診を経験することが問題となっている。
しかし、こうした患者の経験に関する研究は、未診断期の年数や受診した医療機関の数などの数量的な調査がほとんどであり、患者が実際に抱えた問題を深く分析し、記述的に明らかにする研究は十分になされてこなかった。
今回、患者の実情を把握し、適切な施策を検討する必要があるとの考えのもと、大阪大学のグループは、難病・希少疾患の一つである遺伝性血管性浮腫(HAE)の患者9名にインタビュー調査を実施した。患者の経験の質的研究として、聴き取った内容を「内容分析」という手法を用いて分析した。
分析の結果、未診断期の困難に関する経験は、①症状への慣れと諦め、②積極的な原因探究、③病院外での独自の試みの三つのテーマに大きく分けられた。①のテーマでは、患者は症状に苦しみ、治療を求めて病院を受診するが、多くは最終的に自分の状態や明確な診断がつかない病院での対応に慣れ、受診を諦めていくことが報告された。
②、③のテーマでは、少数の患者による積極的な受診の経験や独自に行った症状改善に向けた取り組みが語られたが、全体を通して、多くの場合は難病・希少疾患に罹患している可能性を疑わず、積極的に診断を探さないまま苦しむ状態が続くことが明らかとなった。
本研究により、未診断期間の長期化をもたらす要因の1つは、患者や医療者が「難病・希少疾患の可能性に思い至らないこと」である実態が浮き彫りとなった。今回の研究参加者がHAEの症状初発から診断が確定するまでに要した年数は、平均で23年であったという。早期に診断をつけるために、患者や医療者が早期に難病・希少疾患を疑い、行動を起こせるための施策が必要といえるだろう。