東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の榎本和生教授らの研究グループは8月11日、最新の光遺伝学、神経活動の可視化技術などを用いショウジョウバエ幼虫における痛みの神経回路を明らかにしたと発表した。
「痛み」という感覚は哺乳類だけではなく、魚類や昆虫などほとんどの生物に備わっている重要な感覚である。痛みを感じると生物は危険を避ける行動を起こす。しかし、痛みの感知を逃避行動へと変換する神経回路がどのように実装されているのかはわかっていなかった。
今回研究グループはショウジョウバエ幼虫を使った実験を試みた。ショウジョウバエ幼虫は強い痛みを感じると横向きに高速回転運動を行い危険な対象物から逃れようとする。最近、ショウジョウバエ幼虫の痛覚神経および痛覚受容体が同定され、ヒトと同じ仕組みを使っていることが分かってきたという。
今回、まず、皮膚に存在する神経細胞が脳に情報を送る際に、自分が持っている痛みシグナルを直接伝える相手となる神経細胞(二次神経細胞)を見つけた。次に、この神経は活性化すると回転運動を引き起こし、抑制されると回転運動が起こらなくなる回転運動に対して非常に重要な神経であることがわかった。そして、二次神経細胞は、特定の筋肉へと痛みシグナルをさらに伝え活性化させることを示した。
この研究により、痛みによって引き起こされる回転運動の神経回路を入り口である感覚神経から出口となる筋肉まで解明した。今後この機構のさらなる解明が期待されるとしている。