東京大学分子細胞生物学研究所の伊藤啓准教授、坪内朝子研究員、矢野朋子大学院生らの研究チームは、キイロショウジョウバエを使って昆虫の体性感覚神経回路全体の構造を初めて解明し、哺乳類のそれと極めて類似性が高いことを明らかにした。

 五感のなかで視覚・聴覚・嗅覚・味覚の4つは、目・耳・鼻・口という特定の感覚器官で検知される。これに対し、体性感覚(触覚)は、体中に散在するさまざまな感覚器官が脳に情報を送る複雑な構造をしており、その全貌は未解明である。

 研究チームは、キイロショウジョウバエを使って一部の種類の細胞だけで遺伝子の発現を誘導できるような遺伝子組み換え系を作製。これをスクリーニングすることによって、すべての種類の体性感覚細胞をそれぞれ特異的に操作し、中枢神経系に伸びる神経線維を解析することに成功した。このように、感覚神経系のなかの特定の1種類だけの神経で活動を検出したり機能を操作したりする実験は、哺乳類の実験動物では非常に難しいという。

 今回明らかになった神経回路は、哺乳類と非常に高い類似性を持っていることがわかった。昆虫と哺乳類では、視覚・嗅覚・味覚の神経回路構造が非常に似通っていることが既に知られている。さらに、同研究チームは数年前の研究で、音や重力を検知する中枢構造も昆虫と哺乳類でほぼ同じであることを発見した。体性感覚に関する今回の研究で、五感全ての神経回路構造に共通性が見つかったことになる。

 これによって、昆虫と我々哺乳類の脳はばらばらに進化したのではなく、これら五感の基本を備えた脳を持つ共通の祖先が存在し、そこから分かれて進化した可能性が高まったと結論づけられている。

論文情報:【Science】Topological and Modality-specific Representation of Somatosensory Information in the Fly Brain

大学ジャーナルオンライン編集部

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