女性の社会進出に伴う晩婚化は、子供を希望する女性年齢の上昇という結果を生み、不妊カップル増加の一因となっている。体外受精を含む高度生殖補助医療においても、40歳代では成績が低下することから、閉経前にホルモンバランスの異常(内分泌環境の破綻)だけでなく、卵巣機能そのものの低下が始まっていると考えられている。しかし、なぜ40歳を超えると急激に卵巣機能が低下するのかという原因は、これまで明らかとなっていなかった。
広島大学の研究グループは、「加齢に伴う卵巣機能変化」=「排卵経験数の増加」と置き換え、排卵という炎症状態の繰り返しが慢性炎症となり卵巣機能を低下させるという仮説を立てた。そして、40歳以上の不妊患者に多い「胞状卵胞への卵胞発育がほとんど見られない症例(ローレスポンダー症例)」のモデルマウスを遺伝子改変により作出し、この仮説の立証を試みた。
その結果、排卵回数の増加に伴ってステロイドホルモン産生細胞が蓄積し、性腺刺激ホルモンが多量に分泌されることで卵巣組織の線維化が引き起こされることがわかった。そして、この卵巣組織の線維化が卵胞発育を抑制し、卵巣機能を低下させることを明らかにした。
さらに、こうしたマウスに性腺刺激ホルモンの分泌を長期間抑制する処置を行ったところ、卵巣組織の脱繊維化を誘導し(卵巣若返り)、妊よう性(妊娠しやすさ)の改善をみたという。
これにより、内分泌環境の改善で妊よう性を回復させうる可能性が示唆され、今後の高齢女性の不妊治療への応用が期待されている。
論文情報:【Aging Cell】The acceleration of reproductive aging in Nrg1flox/flox;Cyp19-Cre female mic