神戸大学大学院、姫路市立手柄山温室植物園、大阪市立自然史博物館の研究グループは、野生ランであるサギソウの花を特徴づけるギザギザ形状が、花粉を運ぶスズメガの花をつかむための支えになっていることを明らかにした。
ラン科植物は決まった種類の昆虫を、花粉の運び手として利用する種が非常に多い。その爆発的な花びらの形態の多様性は、特定の昆虫を呼び寄せるように進化した結果生み出されたとされる。野生ランであるサギソウは、純白の花びらの形が空を舞う白鷺を思わせるため「鷺草」と呼ばれ、古くから人々に愛されてきた。しかし、サギソウのギザギザ状に裂ける特徴的な花びらの形が、花粉を運んでくれる昆虫とどのような相互作用のもとに進化したのかは不明だった。
そこで、研究グループは「自生地におけるギザギザの切除実験」と「花粉を運んでくれる昆虫の詳細な行動観察」を3年間実施。その結果、サギソウ自生地でギザギザを切除した個体は、切除しなかった個体と比べ、果実1個あたりの健全な種子数が低下した。さらにサギソウの主要な花粉の運び手であるスズメガが、サギソウの蜜を吸う際に通常はギザギザ部分に中脚をかけてつかまるが、ギザギザを切除するとしばしば花びらに脚をかけられなくなると判明。ギザギザは花粉を運ぶスズメガの支えとして機能していた。
スズメガは、主にホバリングしながら蜜を吸うと考えられてきた。今回の研究は、サギソウがスズメガを花粉の運び手として利用しているにも関わらず、その目立つギザギザが視覚的なガイドというよりむしろスズメガの吸蜜中に花をつかむための支えとして進化してきたことを示唆する重要な成果としている。