慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授、根岸一乃教授らは、バイオレットライト(紫光)が成人の強度近視患者の近視進行を抑制する可能性を発見した。
強度近視は、日本では失明(視覚障害1級)の原因の第4番目に挙げられ(厚労省報告書)、失明のリスクが非常に高いとされる。しかし、成人の強度近視患者に対し、現在、近視進行抑制の有効な眼軸長伸長の抑制方法はない。眼軸長とは、眼の奥行きのことで、主に眼軸長が伸びることで近視が進行すると考えられている。
研究グループは、すでに、自然光に含まれるバイオレットライト(波長360~400nmの可視光)が若年者(13~18歳時)の眼軸長伸長抑制に有効である可能性を報告している(2016年12月)。
今回、屈折矯正手術の1つである有水晶体眼内レンズ挿入術を、成人強度近視患者26名に行った。そのうち11名はバイオレットライトをほとんど透過しないレンズを挿入した集団で、15名は透過するレンズを挿入した集団だった。
その後5年間にわたり近視の進行を検討し、2つのレンズの種類による違いを調査した。その結果、バイオレットライトを透過するレンズを挿入した集団の方が眼軸長の変化量が少なく、近視の進行が抑えられる傾向が示された。
その違いを高次収差や残余乱視、有水晶体眼内レンズの分光透過率、モデル眼を用いた軸外収差シミュレーションなど多方面から比較検討した。その結論、バイオレットライトの透過率の違いが成人の強度近視眼の眼軸長伸長抑制にも効果がある可能性が示された。
今回の研究成果により、バイオレットライトは若年者だけでなく、成人の強度近視患者の眼軸長伸長も抑制し、失明予防の一端を担うことが期待される。
論文情報:【Scientific Report】Violet Light Transmission is Related to Myopia Progression in Adult High Myopia