東京大学の相田卓三教授らの研究グループは、世界初の自己修復ガラスを開発した。室温で破断面を押し付けておくと修復・再利用が可能になる初めてのガラス素材であり、持続可能な社会への貢献が期待される。
ある種のゴムやゲルは自己修復する。二つの破断面を互いに押し付けておくと融合し、再利用が可能になる。それら自己修復材料の組織内では、小分子が一次元に長く繋がった高分子物質が活発に熱運動をしている。そのため、押し付けられた破断面の間で、高分子鎖が互いに相互貫入して絡み合い、非損傷部位と見分けがつかない組織を再生する。対照的に、ガラスのような固い材料を構成している高分子鎖は熱運動が著しく遅いため、破損前の組織を再構築できない。
今回開発されたガラスは「ポリエーテルチオ尿素」と呼ばれる高分子材料からなる。この高分子物質は生体分子の表面に強く接着する「分子糊」と名付けた高分子物質を合成するための中間体として設計された。その過程で、固く、さらさらした手触りの表面をしていながら、破断面を互いに押し付けているとそれらが融合する特別な性質を示すことに気がついた。温度・圧縮応力を精密に制御できる装置を用いて、この材料の修復能を評価したところ、室温における数時間の圧着で、機械的強度が破損前と同等の値にまで回復した。
自己修復性の構造を持つ高分子物質を複数合成し、その力学強度や修復能を評価した。その結果、比較的短い高分子鎖を用いて、水素結合で高密度に架橋する必要があること、また、結晶化を誘起せず、水素結合の交換を容易にする構造であること、という条件が局所的な運動性と高い力学強度の実現に重要であることが明らかになった。
論文情報:【Science】Mechanically robust, readily repairable polymers via tailored noncovalent cross-linking