慶應義塾大学の岸本泰士郎特任教授らと株式会社FRONTEOは、自然言語処理(NLP)を用いた「会話型認知症診断支援AIプログラム」を開発した。高齢者と医療者の間で行う自由会話文を基に認知症の可能性をAIが検知できる。
高齢化がより一層進む日本では認知症の人の数が増え続けており、推計では2025年には730万人(高齢者の約5人に1人)に達するとされる。認知症対策は日本の重要な社会的課題となっている。認知症の診断は、通常、病歴の問診に加え、画像検査、記憶や計算力などを測る複数の認知機能検査によって行われる。しかし、これらの検査は専門性が高く、検査を行う医療従事者への訓練が必要な上、時間もかかるなどといった問題があった。
認知症は記憶力や注意力など、さまざまな機能に影響を与えるが、言語機能にも影響が出る。そこで研究グループは、自由会話を録音し、自然言語処理(NLP)の技術を使って認知症の可能性を判定する研究を行った。協力者135人から合計432回分の会話を書き起こし、形態素と品詞への分解、ベクトル変換、機械学習を実施。その結果、認知症の有無を高い割合で正しく認識することに成功した(精度0.90、感度0.88、特異度0.92)。この精度は3~5分程度の発話から得られる語彙数で実現が可能だった。
今回の研究成果は高齢者と医療者の間で行う自由会話文を基に認知症を検知するもので、記憶や計算等の検査を行わなくても、認知症の識別が可能だ。繰り返し行う検査の場合、被験者が検査内容を覚えてしまい検査精度が低下することがあるが、この技術はそのような「学習効果」を避けられるため、スクリーニング検査などへの実用化が期待されるとしている。