新生仔マウスの超音波発声は、母性行動を誘発する音声コミュニケーションのための社会的シグナルとして機能し、ヒト新生児の泣き声のモデルとなる可能性がある。東北大学大学院の大隅典子教授らを中心とする研究グループは、父加齢により、仔マウスの超音波発声の回数と持続時間が減少し、鳴き声のパターンが変化することを明らかにした。
自閉スペクトラム症は、社会性コミュニケーション異常や常同行動によって特徴づけられる神経発達障害の一つ。父親の高齢化が子どもの自閉スペクトラム症等の危険因子となることが、繰り返し報告されている。今回、研究グループは、父マウスの加齢が仔マウスの音声コミュニケーションの初期発達に与える影響を、機械学習を用いた分類方法により詳細に解析した。
若い父親から生まれた仔マウスと加齢父から生まれた仔マウスの超音波発声について、発声の数や持続時間を調べた結果、父加齢により、仔マウスの超音波発声の回数と持続時間が減少し、鳴き声のパターンも変化した。また、若い父親から生まれた仔マウスは、生後の発達過程で収束的な発声特性を示し、音声レパートリーが豊富であったが、加齢父から生まれた仔マウスはレパートリーが少なく、より発散的な発声パターンを示し、さらに、典型的な音声発達の筋道から外れた「非典型」個体が存在した。
今回の研究は、父親の加齢が次世代の初期音声コミュニケーションの発達に大きな影響を与えることを示した。特に多様な「個性」を持つ個体が増えるという現象を、初めて詳細に解析した。これにより、音声コミュニケーションの発達過程と神経発達障害の新たな神経基盤の解明への貢献が期待されるとしている。