Climate change: Australian bushfires linked to largest stratospheric warming recorded in three decades

 
2019〜2020年にオーストラリア南東部で発生した森林火災で、地球の上層大気に煙粒子が放出され、このことが一因となって、下部成層圏の温度が1990年初頭以降で最高レベルを記録したことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。

オーストラリアの森林火災では、数百万トンの煙エアロゾルが地球の大気中に放出された。異例だったのは、著しい量の煙が、オーストラリア上空約15キロメートルの高度から始まる下部成層圏の高さに達したことだった。それとほぼ同時期に、下部成層圏では、異常高温(1992~1993年以来最高)が数か月間観測された。

今回、Lilly Damany Pearceたちの研究チームは、オーストラリアの森林火災によって放出された煙エアロゾルが成層圏昇温をもたらしたのかどうかを調べた。Pearceたちは、CALIPSO衛星とスミ国立極軌道パートナーシップ衛星からのデータを用いて、2019年12月〜2020年の南半球成層圏のエアロゾル濃度を監視し、それと比較する目的で、2012年6月〜2018年12月にこの2つの衛星によって記録されたエアロゾル濃度も調べた。Pearceたちは、2019年12月31日に最初の煙のプリューム(噴煙柱)が高度16キロメートルに達したことを報告し、2020年1月12日に同じような煙のプリュームを検出した。煙エアロゾルは、最終的に25キロメートル〜35キロメートルの高度に達し、2020年を通じて検出された。

次にPearceたちは、以上の知見を英国地球システムモデル・バージョン1(UKESM1)に適用して、これらの煙のプリュームが下部成層圏の温度に及ぼす影響を推定した。そして、煙エアロゾル、オゾン層の変化、あるいはその両者の組み合わせが、成層圏の温度に及ぼす影響をモデル化し、現在の気候の対照シミュレーションと比較した。煙エアロゾルとオゾンのシミュレーションにおいて、2020年1〜6月の下部成層圏についてモデル化された温度は、現在の気候と比較して有意に高かった。また、2019年11月〜2020年3月までについては、約0.65℃の成層圏昇温がモデル化され、これは、同期間中に観測された0.7℃の急上昇に近かった。このことは、モデルにおける成層圏昇温の原因が森林火災の煙エアロゾルであることを示唆しているとPearceたちは述べている。モデル化された急激な昇温は、硫酸塩煙エアロゾルを成層圏に放出した1991年のピナツボ火山の噴火以後では最も大きいとPearceたちは考えている。

Pearceたちは、気候変動によって将来の森林火災の頻度と強度が高まることが予測されているため、煙エアロゾルを原因とする成層圏昇温とオゾン層破壊が増える確率は高まっていく可能性があると結論付けている。

doi:10.1038/s41598-022-15794-3
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「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

 
※この記事は「Nature Japan 注目のハイライト」から転載しています。
転載元:「気候変動:30年間の記録上最大の成層圏昇温とオーストラリアの森林火災の関連性
 

Nature Japan

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