熊本大学大学院の上瀧剛教授らの研究グループは、信州大学と凸版印刷株式会社との共同研究により、熊本地震で崩落した石材の元の所在を、画像照合技術を用いて特定するシステムソフトウェアを開発した。
平成28年4月に発生した巨大な熊本地震により熊本城は大きな被害を受けた。石垣から膨大な数の石材が崩落し、復旧作業には10年以上かかるとされた。熊本城の石垣は1つ1つが文化財で、崩落した石材を元の正しい位置に戻す必要があるが、数が多く目視作業は困難だ。そこで、研究グループは、画像処理技術により照合作業を支援するシステムを検討した。
当初、震災前の石垣写真がなく行き詰まっていたが、凸版印刷株式会社がVR熊本城のコンテンツ作成用に、高精細な4万枚以上の石垣写真を撮影していた。研究グループは、これを用いて石材1つ1つの正対した画像と、実寸スケールの輪郭データベースを作成した。次に、石垣の崩落後、石置き場に移した石材をステレオカメラにより3次元で計測。ミリメートル単位の実寸スケール情報から正面から見た形状への変換が可能になった。
さらに、崩落前後の石材輪郭形状および位置関係を基に対応付けを行う、画像処理技術による自動照合システムを開発して、熊本城の飯田丸五階櫓の石垣に適用。370個の崩落石材に対して、337個(91%)の石材の元の所在を特定した。また、事前に行っていた人間の目視照合結果に約1割の誤りを発見し、人的作業で数か月を要した数百枚の写真照合は約1時間で終了した。
開発したシステムは実際の飯田丸五階櫓の復旧工事の設計に採用され、この設計に従って着工を予定している。今後は他の石垣照合での活用も期待されている。