ヒトの腸内には数百から千種におよぶ細菌が生息し、腸内細菌叢を形成しているが、同時にそれと同程度かそれ以上の数のウイルスも存在し、大部分はバクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)である。ファージは腸内細菌叢の形成や活動に強い影響を与えると考えられているにも関わらず、多様性や生態系について未知の点が多く、ヒト腸内における「ダークマター」とも呼ばれている。
今回、早稲田大学、東京医科大学、国立国際医療研究センターなどの研究者たちは、Japanese 4D(Disease Drug Diet Daily life)マイクロバイオーム プロジェクトに登録されている4,198 人の日本人の大規模ショットガンメタゲノムデータを解析することで、ヒト腸内に生息するファージの全貌を明らかにすることを試みた。
独自の情報解析パイプラインを構築し、メタゲノムデータに応用した結果、1,000種類以上のファージのゲノム情報を同定することに成功した。興味深いことに、この中には、ヒトの腸内に豊富に存在しているにも関わらず今まで未知であった新規のファージグループも多数発見された。
さらに、腸内のファージコミュニティに影響を与える因子を明らかとするため、網羅的な関連解析を行ったところ、年齢、性別、食習慣、生活習慣、病気、薬剤摂取などの様々な因子が、腸内のファージコミュニティと関連することを見出した。これらの因子の大部分は、腸内細菌叢に影響を与える因子とも一致しているといい、細菌とファージのコミュニティがヒトの腸内で密接な関係を築いている可能性が強く示唆されたといえる。
本研究により、新規ファージグループを含むヒト腸内に生息するファージコミュニティの全体像が明らかとなったことで、今後、腸内細菌とファージの相互作用の理解や、ファージを用いた腸内細菌の制御、その応用による病気の新規治療法等の開発につながることが期待される。