名古屋大学大学院の鄧雨奇大学院生らの研究グループは、低周波騒音に含まれるヒトの皮膚血流を改善できる音成分を発見した。健康に有害とされる低周波騒音を健康増進に再利用するシステムの構築が期待される。
低周波騒音は100 ヘルツ(Hz)以下の周波数の音と定義される。風力発電の風車・ヒートポンプ式給湯器・エアコン室外機・フリーザー・トラック等、多種多様な機器から検出される。近年、健康障害を誘発する可能性が報告されているが、低周波騒音のどんな音成分が、体のどの部分にどのように作用するのかは不明だった。
研究グループは、低周波騒音の中にヒトの四肢の皮膚血流を改善する音成分が含まれていることを明らかにした。しかし、この音成分を用いてヘッドホンで聴覚刺激を行っても、ヒトの手足等の末梢組織で血流改善効果は認めなかった。この音成分は耳を刺激しているのではなかった。血流増加に関与する因子の研究(waveletスペクトラム解析)により、血管(血管内皮細胞)を直接刺激して血流を改善する可能性が判明した。
また、動物による研究で、この音成分は皮膚の体温を上げることも分かった。一般に、血流の改善は健康に有益とされる。さらに、この音成分の皮膚体温を上げる効果は、冷え症等の改善に有効と考えられる。
今回の成果は、健康への有害性が懸念されてきた低周波騒音の中に、むしろ健康に良い音成分が含まれている可能性を示している。今後、健康障害を誘発する厄介者とみられてきた低周波騒音から健康に良い音成分だけを抽出する技術を開発することで、低周波騒音に対する新しい対策も期待できるとしている。