慶應義塾大学のグループは、カラスにおいて、対面する相手との関係(優劣)によって異なる身体反応が生じることを明らかにした。

 緊張関係や親和関係をもつ相手とのコミュニケーションには、脳の活動だけでなく心拍数の変化など身体にも反応が伴い、脳と身体が相互作用的にはたらいていることが知られている。これは、ヒトに限らず社会を営むさまざまな動物ではたらく作用と考えられるが、これまで鳥類では、コミュニケーション場面における身体のはたらきを調べた研究はなかった。

 カラスは、仲間を個々に識別し、優劣(強い・弱い)による緊張的な関係や、毛づくろいを交わし合う親和的な関係を構築するなど、複雑な社会を営んでいることがわかっている。本研究では、日本に生息するハシブトガラスを研究対象とし、このような特定の関係をもつ相手とのコミュニケーション場面において、心拍や自律神経系などがどのように変化するのかを調べた。

 実験に際し、脱落防止の特製ベストとともに無線式心電計をハシブトガラスの胸部に装着することで、自由に行動するカラスから心電図を記録するシステムを世界で初めて確立した。これを用いて、優劣関係にあるハシブトガラス2羽を実験室において対面させながら心電位を記録し、心拍数および自律神経(交感神経、副交感神経)の活動バランスを解析した。

 その結果、優位オスと対面した劣位オスは、対面前と比べて心拍が低下し、副交感神経の活性が生じていた。一方、相手である優位オスの心拍は変化せず、交感神経の活性が生じていた。ヒトやげっ歯類では、副交感神経の活性を伴う心拍低下は、嫌悪や恐怖などの負の情動に伴って生じることが示唆されている。今回、カラスの劣位オスに生じた身体反応も、優位オスに対する「嫌だ」「怖い」といった負の情動にもとづく可能性があるとしている。

 本研究により、鳥類にも相手との関係に応じた身体反応が生じるしくみが進化していることが示され、今後さまざまな動物におけるこころの進化を解き明かすための重要な示唆が与えられたといえる。

論文情報:【Royal Society Open Science】Social encounters produce different autonomic response between dominants and subordinates in crows

慶應義塾大学

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