慶應義塾大学の研究グループは、新しいマウス近視モデルの確立に成功した。
このモデルは、3Dプリンターで作成した専用メガネをマウスに装用させ、近視の強さと相関する眼軸長を精密に計測することで実現した。これまで近視誘導が難しかったマウスで、安定性・効率性に優れた近視研究が可能となる。
近年、全世界で近視の有病率が増加し、人類の3分の1が近視だと言われている。日本においても強度近視の有病率は40歳以上で5%程度と推定され、失明原因の第4位であるとの報告もある。
日常生活の不便さだけでなく、視覚障害に繋がる可能性もある近視。ところが、いまだに近視の発症や進行に関して詳しいメカニズムはわかっていない。
近視研究を大幅に遅らせている原因の一つは、適切な疾患動物モデルの欠如だ。これまで近視モデルとしてよく使われてきたヒヨコやツパイは、いずれも細胞レベル、分子レベルでの病態解明に不可欠な遺伝子改変技術の確立が不十分。一方、現在最も多様かつ容易に遺伝子改変が可能なマウスは、確実に近視化させる方法が確立されていなかった。
本研究グループは、3Dプリンターを用いてマウス専用メガネを作成し、高精度に眼軸長の変化を測定できる全眼球光干渉断層計という新しい技術と組み合わせることで、想定した近視強度にマウスを誘導する実験モデルの構築に成功した。
このモデルマウスでは、眼軸長が伸長する人間の近視の特徴が十分に再現できており、近視進行抑制効果が報告されているアトロピン点眼の近視抑制現象も再現できたという。本モデルは今後、近視発症・進行メカニズムの解明や近視の新しい予防・治療法開発に大きく貢献することが期待されている。
論文情報:【Scientific Reports】A highly efficient murine model of experimental myopia