瀬戸内海中央の燧灘(ひうちなだ)では、2000年代初頭から、ちりめんじゃこや煮干し(いりこ)として利用されるカタクチイワシのシラス(仔魚)やカエリ(稚魚)の漁獲量が急激に減少している。
水産研究・教育機構、香川県、愛媛大学、広島大学の共同研究チームは、燧灘におけるカタクチイワシ漁獲低迷の原因を究明すべく、野外調査や飼育実験などに取り組んだ結果、次のことを明らかにした。
まず、近年、カタクチイワシの産卵盛期を含む春~初夏に、主要な餌となる動物プランクトン(カイアシ類)が顕著に減少していた。次に、動物プランクトン減少の影響か、近年のカタクチイワシ雌は痩せていることがわかった。痩せた雌が産んだ卵は、太った雌が産んだ卵に比べて小さく、生まれた仔魚も成長率が低いことが、飼育実験から示されている。実際に、1994~2019年におけるカタクチイワシの総産卵数と仔稚魚の漁獲尾数を比較すると、総産卵数は近年増えているにもかかわらず、仔稚魚の漁獲尾数は2000年代以降から急激な減少を認めた。
つまり、餌プランクトンの減少を発端にカタクチイワシの雌は痩せ、質の悪い卵を産み、発育初期の仔魚の生き残りが著しく悪くなっていることが推測される。近年の燧灘のシラスやカエリの不漁は、これら複合的な要因が招いた結果であると考えられた。
瀬戸内海では近年、栄養塩濃度の低下(貧栄養化)や高水温化が指摘されており、これらはカタクチイワシの餌のプランクトン減少にも関与しているとみられる。本研究成果は、瀬戸内海において複雑化する「貧栄養化-餌プランクトン発生の変化-漁業生産低迷」の因果関係に関する理解を飛躍的に進める足掛かりとなると期待される。