大阪公立大学の研究チームは、光誘導加速により、狙った細胞に効率的に生物機能性分子を導入する新技術の構築に成功した。
従来の細胞内導入のプロセスでは、細胞膜透過の効率が低いため、高濃度の生物機能性分子が必要であることや、それにもかかわらず特定の狙った細胞における薬物活性が低いことが問題視されている。加えて、従来技術では細胞選択性が乏しいことから、例えばがん治療に有用な機能分子も、がん細胞だけでなく正常な細胞へのダメージを伴う。こうした副作用を避けるためにも、低濃度の薬剤を、狙った細胞にのみ選択的に投与できる技術開発が切望されてきた。
今回、本研究チームでは、細胞内導入に光誘導加速を応用することで、狙った細胞に効果的に機能分子を送り届ける技術の開発に成功した。生体にダメージを与えない赤外レーザーを100秒間集光して光発熱効果による対流(光誘起対流)を発生させ、これを駆使して目的の細胞へ機能分子の輸送・集積を行う。光誘導加速により、非常に効率的で選択的な細胞内への取り込みが可能となるとしており、従来の100~1000分の1という低濃度で有用な分子を濃縮導入できることを実証したという。
実験では、低濃度条件下での染色試薬の選択的導入や、さらには低濃度の抗がん活性ペプチドを用いたがん細胞のアポトーシス(細胞死)誘発に成功した。つまり、本技術を用いれば、細胞死を起こす薬剤を、極低濃度でターゲットの病原細胞内に濃縮導入でき、選択的に破壊することが可能となる。
本研究成果は、薬剤を細胞内導入する際の副作用の低減や、新薬の細胞試験で薬剤量を大幅削減できることによる開発コスト低減を実現できると考えられ、創薬・医療分野における革新的技術となることが期待される。