名古屋大学の研究グループは、タンパク質リン酸化酵素の一つである「Rhoキナーゼ」が統合失調症の治療標的となり得る可能性を世界で初めて示した。
本グループはこれまでに、日本人において統合失調症発症に強く関与する「ARHGAP10遺伝子バリアント(変異)」を同定し、さらにこのバリアントを模したArhgap10遺伝子改変マウスにおいて「ARHGAP10の下流分子であるRhoキナーゼの異常な活性化」、「内側前頭前皮質の神経細胞のスパイン密度低下」、「野生型マウスには影響を及ぼさない低用量の覚醒剤による認知機能の低下(覚醒剤に対する感受性の増大)」が現れることを明らかとしてきた。しかし、これらの関連についてはよくわかっていかなかったことから、今回、Arhgap10遺伝子改変マウスにRhoキナーゼ阻害剤を投与する実験を通じて、Arhgap10遺伝子バリアントを基盤とする統合失調症の病態におけるRhoキナーゼの役割を探索した。
結果として、Rhoキナーゼ阻害剤の投与により、Arhgap10遺伝子改変マウスの内側前頭前皮質のスパイン密度異常と覚醒剤への感受性の増大を改善できることを見出した。すなわち、Arhgap10遺伝子バリアントにより引き起こされる内側前頭前皮質のスパイン密度の低下および覚醒剤への感受性の増大において、Rhoキナーゼの異常な活性化が重要な役割を果たしていることが示されたといえる。
以上から、Arhgap10遺伝子バリアントを基盤とする統合失調症の病態において、Rhoキナーゼが治療標的となる可能性は高いだろう。今後、本研究で得られた知見は、ARHGAP10遺伝子バリアントをもつ患者を含めた統合失調症に対する新規治療薬の開発に大きく寄与すると期待される。