京都大学の高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の北川進拠点長らの研究グループは、アイルランドおよび米国の研究グループと共同で、二酸化炭素や一酸化炭素を吸収して形を変え、さらにその形状を記憶する柔らかい多孔質結晶の開発に成功した。様々な気体(ガス)の効率的な貯蔵や分離を可能にする新素材につながる成果だ。
一度覚え込ませた形状を保ち続ける材料は形状記憶材料と呼ばれ、過熱などの処理をしない限りその形状を記憶し続ける。材料には金属合金などが使用される。メガネのフレームや医療材料など用途は広い。今回の研究では、ガス分子を吸着して形状記憶現象を示す多孔質結晶の合成に成功し、その記憶のメカニズムを初めて明らかにした。
この多孔質結晶は有機分子と金属イオンが結合しジャングルジム状に組み上がったネットワーク構造を持ち、内部に無数のナノサイズの細孔がある。ガスを吸着する前はジャングルジムが歪み、細孔が閉じているが、二酸化炭素などのガス分子を吸収すると変形して細孔が開き、ガスを排出しても細孔は閉じない。すなわち、ジャングルジム結晶は一度ガスを吸うとその形状を記憶する。しかし、120度以上まで加熱すれば元の閉じた形状に戻せる。この性質を利用すれば、ガスを吸わせたいときには開けておき、吸わせたくないときには閉めておくといった細孔の制御が容易になり、複雑なガス分離プロセスを可能にすると考えられる。
これまで謎が多かった形状記憶結晶のメカニズムが解明されたことで、同様の性質を示す様々な素材の開発につながる。二酸化炭素などの様々なガスの分離や貯蔵といった難しい問題を解決する新素材への応用が期待される。