京都大学大学院情報学研究科のChristian E. Vincenot助教は、異分野で用いられている2つのモデリング概念が次第に接近・融合し、統一的な概念へと昇華する過程を関連論文における引用状況を追跡することで明らかにした。
「社会学」では、個体のふるまいをモデリングしそれをシステム全体に拡張して複雑系を理解するABMと呼ばれる研究手法がある。一方で、「環境学」ではABMはIBMという名称で発展していた。このように、ABMとIBMは名称と適用される学術分野が異なるものの、同じ理論をベースにしているため、融合することが予想された。
そこで、今回、Vincenot助教は、ABMとIBMが分野の境界を越えて融合する様子を論文の引用関係を分析することによって観察した(「Eurekalert!」のウェブサイトで追跡動画が見られる)。
その結果、1990年代は農学・生物学などの分野でIBMに関する論文が、2000年代からは工学・情報学などの分野でABMに関する論文が盛んに発表されている様子が確認できた。また、当初はIBMとABMがそれぞれ孤立していたが、2003年以降に両者の引用関係が始まり、2015年には明らかに2つの用語が融合している状態を観察することができた。驚くべきことに、その融合のカギを握っていたのはたった6点の論文であり、これらの論文を除くとABMとIBMの融合は起こらなかった。
学際的な研究によって様々な学術分野の概念が融合し、イノベーションに拍車がかかる。本研究で開発したアルゴリズムを応用することにより、学術的な研究を発案・構築する場合の理論的枠組みを提供することができると期待される。