熊本大学と株式会社ジョリーグッドは共同で「災害医療教育VR」を制作した。地震による列車脱線事故発生直後の一連の救急対応をテーマに、熊本地震を経験した熊本大学の災害医療チームが監修している。
コンテンツ内の列車脱線事故は、日本の災害救急医療の歴史において初めて大規模トリアージ(緊急時にどの傷病者から治療・処置するかの優先順位決め)が行われたJR福知山線脱線事故がモデル。JR福知山線脱線では発災当初、現場の体制も整わないまま負傷者が線路の両側に救出されたため、医療チームが事故の全体像を把握できず、多数の医療チームが参集しても相互の連絡が不十分だったことが課題として報告された(尼崎JR脱線事故特別調査委員会報告書)。
また、東日本大震災では、岩手県沿岸部15病院での全死亡数の内、18.3%は適切な医療介入があれば避けられた可能性のある「防ぎえた災害死」と言われており、災害医療に関する教育の重要性が特に再認識されている。
このように、大規模な自然・人為災害が発生する災害大国である日本では、災害医療の重要性は高く、医療従事者には適切な教育が必要とされている。一方で、実際の災害現場で臨床実習や研修を行うことは困難であり、「実習機会の不足」が課題となっていることから、災害現場を360度空間で実習体験できるVR制作に至った。
制作したVRコンテンツでは、地震による列車脱線事故において、多数傷病者の発生に対して救護班の出動から現場活動までをリアルに学ぶことができる。また、コンテンツ内では、診療内容に関する設問を設けており、受講者は常にVR映像内で処置の判断をしながら災害現場の実習体験を行うことができる。
熊本大学病院 災害医療教育研究センター長、笠岡俊志医師は「医学生一人一人に災害現場への出動をリアルに体験させられることがVRの大きなメリットと考えます。熊本大学でも医師目線のVRコンテンツによる卒前教育によって、災害医療の理解がより深まると期待しています。さらに、卒後教育における活用と効果も期待しています。医学部を卒業した多くの医師は災害現場活動を経験していませんが、自然災害の多い日本において、突然、災害現場対応を求められる可能性もあります。今回作成したVRは日本の医師にとって災害医療を学ぶ貴重なツールになると確信しています。」と、VRコンテンツへの期待を語った。
今後は、2023年3月9日に岩手で開催される「第28回日本災害医学会総会・学術集会」にて、本VRコンテンツを活用した大規模セミナーを実施し、2023年4月以降は熊本大学の医学生および研修医を対象にVRを活用した災害医療教育を行っていく。
参考:【株式会社ジョリーグッド】災害医療をVR再現!地震脱線事故の救急対応をVRで学習!熊本地震の経験を基に熊本大学と共同制作