九州大学病院は、重症の虚血性心筋症患者に対しiPS細胞から作製した心筋細胞シートによる移植を2023年1月中旬に実施したと発表した。「ヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シート移植術」と呼ばれる今回の手術は、九州で初となる。移植後の経過は良好という。
虚血性心筋症は冠動脈硬化症などが原因で引き起こされる心筋梗塞により併発する、広範囲の左室心筋障害。カテーテル治療、冠動脈バイパス手術、薬物治療などを行っても慢性的に左室機能が低下する場合には、左室補助人工心臓の植込みや心臓移植が必要となる。
ヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートは、京都大学(iPS細胞研究所)と大阪大学の共同研究により製品化を目指している。このシートを虚血心筋表面に貼付すると、豊富なサイトカインが心筋内に放出され微小血管の血流が改善されて心筋機能の改善が期待される。加えて、シート内の細胞が患者の心筋と同期して伸縮し、心機能を補助する。現在、国内で臨床試験を実施しており、安全性・有効性の評価が行われている。
患者は50代の男性で、重度の心筋梗塞に対して17年前に冠動脈バイパス手術を受けている。その後、徐々に心機能が低下し虚血性心筋症による重度のうっ血性心不全に陥った。
今回の移植術では、全身麻酔の上、左前胸部を切開して左心室表面を露出し、3枚のヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートを心筋表面に貼付。移植後の経過は良好であり順調に回復している。今後、⻑期にわたり安全性と心機能改善の有効性について評価を行うという。
今後、心臓移植の待機患者、左室補助人工心臓の装着が必要となる患者の減少につながることが期待されるとしている。