埼玉大学、京都大学、宮崎大学、日本大学、理化学研究所の研究者らは、X線天文衛星による観測データから中間圏・下部熱圏(高度70~115km)領域の大気が1年に約0.5%のペースで収縮していることを明らかにした。
温室効果ガスの影響による地球温暖化に伴い、上空20km以上の大気は逆に寒冷化し、結果として収縮すると考えられている。このような大気収縮の理論は半世紀以上前から予想されてきたが、中間圏・下部熱圏における実証に関しては、この領域を安定して周回する人工衛星が存在しないために、観測データがほとんど皆無である。
こうした中、本研究では、X線天文衛星の天体観測データのうち、天体を観測するためには本来使い物にならない、地球大気掩蔽の影響を受けた観測データに着目した。天体からのX線が地球大気の影響を受けたタイミングで、X線強度の減衰率を調べれば、大気密度が測定できるという。
この手法を用いて、日米5機のX線天文衛星が1994年から2022年にかけて取得した観測データから過去に遡って大気密度の長期変動を調査した結果、高度70-115km全域で大気密度は時間と共に徐々に低下しており、28年間で約 15%の低下となっていることがわかった。大気密度の低下は、上層の薄い密度の大気が収縮して落下してきたことを意味しており、言い換えると、高度70-115kmの大気は1年に約0.5%のペースで希薄化している計算になる。この密度低下ペースは、温室効果ガスの増加を考慮した最先端の大気シミュレーションの予測と整合することも確認した。
本研究で開拓した手法は、今後多くのX線天文衛星で適用できるため、将来にわたって超高層大気の密度をモニターする上で役立つ。本研究成果は、地球温暖化に対する理解の深化や、人工衛星の軌道やライフタイムの推定精度の向上など、社会と経済活動への貢献が期待されるとしている。