名古屋大学大学院の上山純准教授らの研究グループは、福岡大学と共同で、日常的な農薬摂取量と腸内環境指標の一つである便中代謝物量との間に関連性があることを疫学的に初めて示した。

 農薬は、非常に身近な化学物質として私たちの生活環境中に存在しており、微量ながら日常的に我々が摂取している。一方、動物実験では化学物質曝露による腸内環境への影響を示す結果が次々に報告されている。したがって、日常的に曝露する化学物質がヒト腸内環境の変動因子の一つである可能性がある。研究グループは今回、一般生活者の日常的な農薬曝露と腸内環境の関係をヒトで初めて調査した。

 研究では一般生活者38名から尿と便を収集し、尿中の農薬代謝物等を測定することで曝露レベルを評価し(バイオモニタリング)、腸内細菌叢や代謝物濃度に影響するかどうかを評価した。その結果、有機リン系殺虫剤の曝露マーカーとして知られる尿中ジアルキルリン酸濃度が高くなるに従い、便中酢酸・乳酸の濃度が低下する傾向にあった。食事や生活習慣で調整した多変量解析でも、尿中ジアルキルリン酸濃度は便中酢酸濃度の有意な説明変数として検出された。大腸における酢酸の役割には、腸管感染防御作用が知られている。

 作用機序は未解明だが、日常的な有機リン系殺虫剤の曝露が、腸管免疫制御などに寄与している便中酢酸濃度に影響することを示唆する結果を得た初めての調査となった。ヒト腸内環境の宿主への長期的な影響を考慮し、今後は子供や妊婦など対象年齢層を広げた研究が必要という。別集団を対象とした本研究結果の再現性確認や、実験的アプローチによる機序解明が急がれるとしている。

論文情報:【International Journal of Environmental Research and Public Health】Effects of Pesticide Intake on Gut Microbiota and Metabolites in Healthy Adults

名古屋大学

真の勇気と知性をもち、未来を切り拓いていける人をめざす

名古屋大学は、9学部・13研究科、3附置研究所、全国共同利用・5共同研究拠点などを擁する総合大学です。創造的な研究活動によって真理を探究し、世界屈指の知的成果を産み出しています。自発性を重視する教育実践によって、論理的思考力と想像力に富んだ勇気ある知識人を育成[…]

福岡大学

ワンキャンパスに集う総合大学ならではの多彩な教育・幅広い教養

1934年に創立された福岡大学は、9学部31学科大学院10研究科の全学部、約20,000人がワンキャンパスに集結した西日本屈指の総合大学。多彩な学科がお互いに連携しながら、個性豊かで専門性の高い教育プログラムを提供しています。少人数で学ぶ「教養ゼミ」や現代社会[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。