京都大学霊長類研究所のワイルドライフサイエンス(名古屋鉄道)寄附研究部門の早川卓志特定助教は、オーストラリア博物館が指揮する「コアラゲノム・コンソーシアム」に参加し、コアラの全ゲノム配列解読に成功した。
愛らしい外見をしたコアラは、母親のお腹の袋で育つ有袋類の仲間である。生活の大半を樹の上で過ごし、猛毒なユーカリの葉を専門に食べる。オーストラリアでも日本でも人気のあるコアラだが、生息地の減少や感染症の流行により絶滅が危惧されている。
今回、同国際グループは、コアラの生態の理解と保全も兼ねて、コアラの全ゲノム配列を解読した。コアラは腸内細菌によって有毒なユーカリを分解していることが知られていたが、コアラゲノムを解析した結果、食べ物中の毒を苦味として感じる苦味受容体(TAS2R)という遺伝子を、他の有袋類に比べて多く持っていることが分かった。また、嗅覚受容体(V1R)や、解毒代謝酵素(CYP)にも特徴があり、コアラは食べられるユーカリを識別する味覚・嗅覚と、摂取後も解毒できる酵素をゲノムレベルで進化させたことが明らかになった。
今回、コアラのユニークな生態や進化を支える遺伝的背景の網羅的解析に成功した。この発見を土台として、今後、ユーカリに適応したコアラ遺伝子が実際にどのようにユーカリ毒に応答しているのかなどを検討することで、コアラの福祉や繁殖の助けになると期待される。
論文情報:【Nature Genetics】Adaptation and conservation insights from the koala genome