大阪大学の越野幹人教授らの研究グループは、2枚のグラフェンを30度の角度で重ねた薄膜を合成することで、ディラック電子による準結晶を実現することに世界で初めて成功した。研究グループには成均館大学、ニューヨーク大学上海、ハーバード大学、韓国高等科学院の研究者が参加している。

 固体には、原子が周期的に規則正しく並んだ「結晶」と、無秩序に並んだ「アモルファス(非晶質)」という2つの形態がある。ところが、1984年にそのいずれでもない「準結晶」と呼ばれる形態が発見された。準結晶には結晶のような周期性はないが、アモルファスとも異なり一定の規則性が存在する。

 これまでに知られている準結晶は複雑な合金だったが、今回の研究で実現した準結晶の材料は炭素のみだ。炭素の2次元物質(厚さが原子1個分の薄膜)であるグラフェンは、炭素原子が蜂の巣格子に並んだ結晶。今回特別な合成方法により、グラフェン2枚が互いに30度で重なった系を生成することで、12回対称を持つ準結晶を実現した。12回対称とは360度回転させる間に同じ絵が12回現れる構造をいう。グラフェンの電子は、相対論的ディラック粒子とよばれる、質量のない特殊な粒子として振る舞う。今回の研究でディラック粒子による準結晶という新しい物理系を実現した。

 準結晶はその特異な幾何学構造から、電気的性質や熱的性質などの物理的特性が注目される。今までの研究では、準結晶は同じ元素組成を持つ結晶に比べ電気抵抗が異常に高いこと、また摩擦が少ないことが知られているが、物性に関して不明な点はまだまだ多い。今回の発見によって、準結晶の範囲が大きく広がり、普通の物質にはない新しい性質の発見が期待される。

論文情報:【Science】Dirac electrons in a dodecagonal graphene quasicrystal

大学ジャーナルオンライン編集部

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