東北大学大学院理学研究科の本堂毅准教授らは、感染症対策では、感染拡大初期から適切な強度の対策を継続的・計画的に行えば、生命と経済、双方の損害を共に小さくできることを理論的に明らかにした。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックに対し、日本では経済的な損害への懸念から医療崩壊が起こり始めるまで感染対策を保留する政策が繰り返され、感染による死者が年を追うごとに増加した。感染症対策の要諦は、経済や財政との両立にある。しかしこれまでの感染症対策と経済に関する研究でも、生命と経済、双方への損害を少なくする方法はほとんど見つかっておらず、生命と経済のどちらかを重視するバランスの問題として捉えられることも少なくなかった。

 経済と感染症政策を、日本で両立することはできないのか。この問いに答えるべく、本研究では、理論物理学の方法論に経済学の費用便益分析と理論疫学を融合した新しい手法で、医療崩壊防止などの必要から感染ピーク時の感染者数を一定レベルに留める条件の下、どのような強度の対策をどのタイミングで行えば、経済と生命への損害を小さくできるかを解析した。

 この結果によれば、危機直前で急ブレーキを掛けるように厳しい対策を行うよりも、早期から適度な対策を継続した方が、経済的影響と健康影響、双方の被害を常に縮小できることが示された。パンデミック下では、いわば先を見越した「緩やかな対策を持続」することが、国民の健康と経済への悪影響を共に小さくするという。本研究を踏まえると、政府による対処方針(感染拡大初期では対策を留保し、爆発的感染拡大に至ってから緊急事態宣言等による強い対策を取る)が感染者数の増加ばかりでなく、経済影響コストの上昇も招く恐れがあるとしている。

 本研究結果は、新型コロナウイルス感染症に限らないパンデミックで普遍的に成り立つ基本原則だとしており、今後、経済と両立させるための感染対策の具体的指針を構築する上で役立つことが期待される。

論文情報:【Journal of the Physical Society of Japan】Timely Pandemic Countermeasures Reduce both Health Damage and Economic Loss: Generality of the Exact Solution

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