昆虫や鳥などの飛翔生物は、主に翼面上に前縁渦を形成することによって自重を支える空気力を発生させ、地上で優れた飛行を行うと考えられている。しかし、地上よりも大気密度が減少する高高度では、翼が生成する空気力は流れの剥離と渦の放出により低下する可能性が高い。これまでにマルハナバチやオオカバマダラの高高度での飛行が確認されているものの、揚力低下が起こる環境下で生物が行う飛行メカニズムは明らかとなっていない。また、低大気密度環境下の実験が困難であることから、高高度での羽ばたき翼型飛行ロボットの開発も実現していない。
このような背景から、今回、信州大学、東北大学、九州大学、前橋工科大学、米国アラバマ大学らの共同研究グループは、ハチドリを規範とした羽ばたき翼型飛行ロボット(ロボハチドリ信州)を開発し、これを東北大学流体科学研究所が所有する火星大気風洞の減圧チャンバーで構築した低密度環境下に置き、翼の動きと空気力を計測する実験を行った。
実験データを解析したところ、翼のサイズと羽ばたき周波数を上手く調整すると、高高度でも、地上での生物羽ばたき飛行メカニズムと同じ空気力発生機構により大きな揚力が得られることがわかったという。結果として、高度9000mに相当する低大気密度(地上の約3分の1)において、世界初の羽ばたき翼型飛行ロボットのリフトオフに成功した。
本成果は、羽ばたき翼特有の空気力学的メカニズムの活用による低密度・高高度環境下での飛行の実現可能性を示すものである。生物の高高度飛行メカニズム解明に繋がることが期待されるほか、高高度よりもさらに低密度な火星大気環境などで、羽ばたき翼型飛行ロボットの飛行実現に繋がる可能性もあるとしている。