大学の研究力強化のために政府が設けた10兆円規模の大学ファンドが2022年度、604億円の赤字となったことが、科学技術振興機構の集計で分かった。コロナ禍やロシアのウクライナ侵略で市場が不安定だったためで、船出からつまずく結果になった。
科学技術振興機構によると、2022年度末の運用資産額は9兆9,644億円で、収益額は元本比マイナス0.6%に当たる604億円の赤字。保有資産の時価評価による評価差額は1,259億円の赤字となった。
大学ファンドは2024年度から国際卓越研究大学に認定した大学に助成する原資となる。2021年度から運用を始め、年度単位で運用実績を公表するのは今回が初めて。科学技術振興機構は2026年度末までに年間3,000億円の収益達成を目標に掲げている。
長期運用目標は、大学への資金拠出3%に長期物価上昇率を上乗せした水準として決定。長期物価上昇率は当初1.38%だったが1.49%に上昇し、運用目標は4.49%となっている。ちなみに年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2001~2022年度までの年平均の年金運用実績は3.60%。海外大学ファンドは5%以上を目標としているところも多くあり、4.49%という目標を高いとみるか妥当とみるか、意見が分かれるところだろう。
助成財源額は損益決算書上の当期総利益742億円から前年度の累積欠損金62億円を除いた額から大学ファンドの財務状況を考慮して政府が決定する。
国際卓越研究大学は今秋をめどに1~2校が認定される見通し。認定に対しては全国の10大学から申請があり、文部科学省の有識者会議が内容を精査し、6月下旬までに東京大学、京都大学、東北大学の3校に候補が絞られている。
文部科学省は、10兆円ファンド以外にも令和4年第二次補正予算で、新たな基金を創設しており、今後の運用の成否により、大学の研究や設備投資などに影響が及ぶと考えられる。
〈今後創設される新たな基金〉
●成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金による継続的支援 3002億円
●地域中核・特色ある研究大学強化促進事業 1498億円
●先端国際共同研究推進事業 501億円
●大学発スタートアップ創出の抜本的強化 988億円
参考:【科学技術振興機構】2022年度 業務概況書-大学ファンドの運用状況等-(PDF)
【文部科学省】令和4年度文部科学省第2次補正予算 事業別資料集(PDF)