京都大学の竹内孝助教、鹿島久嗣教授、住友電工システムソリューション株式会社のグループは、これから起きる渋滞の場所と長さを予測する時空間AI技術「QTNN」(Queueing-Theory-based Neural Network)を開発した。
交通渋滞がいつ・どこで発生するかを予測できれば、先回りした経路誘導や信号制御などにより交通の流れが円滑化され、渋滞発生を防止できることが期待される。しかし、AIによる正確な予測は、交通渋滞の発生時間帯、発生場所、長さなどの変動の大きさや、急激な状況の変化を考慮すると、実現が困難な課題とされてきた。
本研究では、交通ビッグデータに基づく深層学習と、長年のフィールド経験を踏まえた交通工学の知見との融合により、この課題の解決に取り組んだ。開発した時空間AI「QTNN」の最大の特徴は、過去から現在までの交通量、平均速度、渋滞長のビッグデータを介して、混雑の変化と道路網の関係を、交通工学の理論に基づき学習する点だ。これにより、まず多数の道路の混雑状況と道路網のデータから、深層学習によって今後の交差点ごとの交通量と平均速度を予測する。次に、これらの予測値を元に、交通量、平均速度、渋滞長の関係性を表す交通工学の交通流モデルを補正しつつ、渋滞長を予測するとしている。このような2段階方式の予測により、最先端の深層学習を使用した上で交通工学の知見とも合致する渋滞予測を実現した。
QTNNを用いた東京都内1098箇所の道路における「1時間先の渋滞長を2ヶ月間予測する実験」では、平均して渋滞長の誤差40m以下という高精度な予測を達成した。他の最新のAIよりも予測誤差を12.6%削減する結果だという。
また、QTNNでは、交通量、平均速度、渋滞長の関係性を記述する交通流モデルを用いるという特徴から、「車両の流入台数が増加して渋滞長が伸びる」や「周囲で一定の交通量が存在するため、平均速度が低下したまま渋滞が継続する」など、AIの予測結果の一部が解釈できるようになっている。
今後は、本格運用に向け、実環境での評価試験を実施するなどし、本AI技術の信頼性の検証をさらに進めるとしている。