筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の研究グループは、アデノシンA2A受容体からのシグナルを増強させる作用を持つ新規低分子化合物A2AR PAM-1が自然に近い眠りを促すことを世界で初めて示した。
現在、国民の10~15%(高齢者は30~60%)が不眠症に悩んでいると言われる。不眠症は薬物治療が中心であるが、既存の睡眠薬はその副作用がよく問題となる。最も一般的なベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、ふらつきやめまいなどの副作用の他、依存症の危険が指摘されている。これらの副作用を解消し、より自然に近い眠りを促す新しい作用機序の薬剤の開発が求められている。
そこで、本研究グループは、脳内で眠りを誘発することが知られているアデノシンに着目した。アデノシンA2A受容体作動薬は、先行研究により強力な催眠効果を示していたものの、同時に、体温低下や低血圧・頻脈等の循環器系の副作用が問題となっていた。そこで、同グループは、受容体のリガンド結合部位とは異なる部位に作用してそのシグナルを増強する「ポシティブアロステリック調節因子」に注目し、1,000種類以上の低分子化合物の薬理活性スクリーニングを経て、新規低分子化合物 A2AR PAM-1を世界で初めて同定した。この化合物をマウスの腹腔内に投与したところ、体温の低下や循環器系の副作用なく徐波睡眠を誘導することに成功したのだ。
本成果により、従来の睡眠薬とは異なる新しい作用機序の不眠症治療薬の開発が期待される。