産業技術総合研究所と京都大学のグループは、一度に多種類の「医薬品・生活関連有機汚染物質(Pharmaceuticals and Personal Care Products、以下PPCPs)」を処理できる炭素量子ドット・酸化グラフェン複合膜の開発に成功した。
人間が利用した水の中には、人間自身の活動で発生した何千種類ものPPCPsが存在している。PPCPsは微量でも薬剤耐性を引き起こすなど、人および生態系に危害を加える可能性があるため、人間が利用した水を再生水として有効利用するには、PPCPsを高効率に処理できる技術が必要となる。
従来の処理技術では、処理できるPPCPsの種類や処理効率に限りがあったほか、操作の煩雑さや有毒な副生成物の発生、コスト高などの問題などが残されていた。一方、今回開発された複合膜は、正・負・中性のPPCPsを一度に処理できることで再生水の高度利用において大きなメリットを有するという。
この新規複合膜は、正に帯電した炭素量子ドット(Carbon Quantum Dot、以下CQD)を、負に帯電した酸化グラフェン(Graphene Oxide、以下GO)の層間に挿入することで、層間に正・負電荷が共存する混合電荷型の環境を形成し、多様な極性のPPCPsの分離・除去を可能とするものである。静電的な斥力によって、正・負のいずれに帯電したPPCPsも通過を妨げながら、膜層間は強い親水的環境にあるため、親水性・疎水性の違いによる排斥効果が作用して中性PPCPsの膜透過も不利とする。こうして、異なる極性の広範な種類のPPCPsを一括して分離除去する効果が得られるといい、実際に、実験で評価した極性の異なる37種類のPPCPsすべてに対して高い除去率を得た。GOだけの膜と比較すると、負イオン型・中性PPCPsの除去率が大きく向上しただけでなく、負に帯電する特性を持つGO膜だけでは除去できない正イオン型PPCPsに対しても、最低でも56%以上の除去率を達成した。
この成果は、世界的な水資源問題解決のための高効率な再生水処理技術の開発に役立つと期待される。また、今後は、複合膜の物理化学的構造を最適化するなど、さらに実用レベルまで分離性能を高める研究を進めるとしている。