量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所の柿沼志津子部長らの研究グループは、首都大学東京との共同研究により、幼少期に高線量の放射線に被ばくしても、その後に妊娠・出産を経験することで乳がんリスクが低下することを、動物実験により明らかにした。
妊娠・出産経験が女性の乳がんリスクを下げることは、医学的によく知られた事実である。逆に、高線量の放射線被ばくが乳がんリスクを高めることも知られている。しかしながら、放射線被ばく後の乳がんリスクと妊娠・出産経験との関係性については、よくわかっていなかった。
そこで、同研究グループは、ラットを使った実験でその関係性を調べた。思春期前に高線量の放射線を照射したラットのうち、妊娠・出産を経験しないものは乳がんリスクが増加したが、妊娠・出産を経験したラットについては、乳がんリスクが、放射線照射せずに妊娠・出産も経験しないラットと同じくらい低くなった。
思春期前に照射したラットでは、プロゲステロン(乳腺の細胞や乳がん細胞を増やすシグナル)の量が妊娠・出産経験によって下がっていた。したがって、乳がんリスクの低下にはこのホルモンが関わっていることが推測される。
本成果は、妊娠・出産経験後におこる体内の変化を模擬することで、被ばく後の乳がんリスクを低下させる薬などを開発する手がかりになることが期待される。