岩手大学の研究グループは、ネコの“スプレー尿”が通常尿よりもクサイ理由を明らかにした。
ネコは、自分のにおい付け(マーキング)の目的で、尾を上げて垂直物に尿を吹きつける行動(“尿スプレー”)を行う。スプレーされた尿は、ネコが通常排泄する尿よりもクサイと感じる人が多く、悪臭問題が飼い主の悩みの種となるが、スプレー尿がなぜ通常尿に比べてクサイのかは明らかとなっていなかった。
本研究は、ネコのスプレー尿の化学組成を詳細に調べたところ、まずスプレー尿と通常尿のにおい成分には違いがなく、ネコもスプレー尿と通常尿のにおいを識別できないことを解明した。
スプレー尿の悪臭の原因が成分ではなかったことから、次にスプレー尿の物性を調べたところ、ネコ尿は濡れ性(固体に対する液体の付着しやすさ)が高く、壁などの垂直物に付着しやすい性質を持つことがわかった。そのために、スプレーされて広範囲に薄く広がった尿の液滴は、約30㎝の高さから地面に流れ落ちる過程で尿の付着面積をさらに広げ、時々刻々と大気中ににおい成分を放出するので強力な悪臭源になるのだという。一方、普段のネコ尿は、直ちに土や砂に染み込み、におい成分は土や砂の粒子に閉じ込められて揮発されないことから、悪臭源になりにくい。
ネコ尿の濡れ性は、悪臭成分を作り出すコーキシンという尿タンパク質によるものであることもわかった。コーキシン濃度が高いほど、ネコ尿の表面張力が低下し、濡れ性が高くなることを見出したとしている。ネコ尿に大量に含まれるコーキシンが、悪臭原因物質を作るだけでなく尿の濡れ性を高め、ネコがにおい付けした場所に悪臭成分を付着しやすくする機能も有していることは初めての発見である。
本研究成果は、哺乳動物の嗅覚コミュニケーションにおける尿中タンパク質の役割について新知見をもたらすとともに、スプレー尿の消臭手法の考案にも役立つことが期待される。