大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座ウイルス学の木村志保子特任助教と上田啓次教授らの研究グループは、これまで未解明であった、インフルエンザ脳症の発症メカニズムを明らかにした。

 インフルエンザ脳症は、ウイルス感染に伴って発症する病気で、意識障害・痙攣など神経症状を呈したのち重症型では24時間以内に高度脳浮腫で死亡する。インフルエンザウイルスだけでなく、SARS-COV2、ヘルペスウイルス6型など他の病原体でも発症し、現時点ではこの疾患に対する根治療法は存在しない。

 研究グループは、ウイルス投与により脳浮腫を発症するインフルエンザ脳症のモデル動物を新たに確立し、解析を進めたところ、ウイルスは脳血管内皮細胞に感染し、時間とともに大量のウイルス蛋白を産生することを見出した。ウイルス蛋白の蓄積が、細胞と血液脳関門を破綻させ、脳浮腫を惹起することがわかったという。なお、生きたウイルス粒子は、わずかに存在するも、脳では必ずしも増殖していないこともわかった。

 そこで、ウイルス蛋白の蓄積を阻害することができれば、脳症の発症を抑制し、脳浮腫の進行を抑えることができると仮定した。仮定に基づき研究を進めると、mRNAの転写もしくは蛋白翻訳を抑制する薬剤によりウイルス蛋白産生が抑えられることを発見した。実際に、これらウイルス蛋白の蓄積を阻害する薬剤を投与すると、動物モデルにおいて、脳症の発症を予防し、脳浮腫の進行が抑制されたとしている。

 この成果により、現時点では根治療法の存在しないインフルエンザ関連脳症を予防・治療できる可能性が示された。早期にウイルス蛋白の産生を阻害することで、救命もしくは神経系後遺症の低減につながる可能性がある。今後、インフルエンザ脳症を含む急性脳症への治療法開発が進むことが期待される。

論文情報:【Acta Neuropathologica】Viral entry and translation in brain endothelia provoke influenza-associated encephalopathy

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