慶應義塾大学と福島大学は、福島県の金水晶酒造株式会社と連携し、被災蔵の酒を新蔵の酒に受け継ぐ日本酒プロジェクトを開始した。2022年の福島県沖地震で被災した酒蔵の日本酒を同酒蔵の新蔵の仕込みにに用い熟成酒とすることで、旧蔵の歴史や思いを新蔵に引き継ぐ。また一点物の価値を付与することで販促につなげる。

 大規模災害により酒蔵が被災し、移転せざるを得ないとき、被災した旧蔵の歴史や思いを新蔵にいかに引き継ぐかが課題となる。「金水晶酒造」は、1895年に創業した福島県福島市内唯一の酒蔵。2022年3月16日に起きた福島県沖地震で全壊判定を受け、福島市荒井に移転することになった。プロジェクトでは、金水晶酒造の旧蔵で生産された日本酒を新蔵の仕込みに使い、旧蔵の歴史や思いを引き継いだ新蔵の日本酒として生産することを目指す。

 福島大学は食農学類附属発酵醸造研究所が金水晶酒造と連携し、旧蔵の酒質を引き継ぐため、貯蔵しても老香(ひねか)※をつくりにくい吟醸酵母を使った吟醸造りの熟成酒を製造する。この酵母で製造した日本酒は、貯蔵しても劣化しにくい熟成酒になることが期待される。

 慶應義塾大学は熟成酒販売において、経済学部附属経済研究所傘下のFinTEKセンターとマーケットデザイン研究センターが参加し、醸造から販売までのフードチェーン実証研究を開始する。

 FinTEKセンターは NFT(Non-Fungible Token)を用いて熟成日本酒のデジタル資産化という世界初の試みを行う。NFTは、ブロックチェーン技術を用いて熟成酒が唯一無二の資産であることを保証する仕組みで、熟成酒のように蔵元で長期間貯蔵するものを管理・流通させるのに有効とされる。

 マーケットデザイン研究センターは、熟成酒が新しい価値を生み出すことから、オークション理論を用いた販売プラットフォームを開発し、適正な価格で販売する仕組みを整備する。

※老香は、以前は清酒の貯蔵により増加する香気成分全体を指す言葉であったが、現在は、熟成により増加する香気のうち、好ましくない劣化臭を指す。老香は日本酒の品質を著しく損なうため、吟醸酒や熟成酒の大敵となっている。今回使用する、“貯蔵しても老香をつくりにくい吟醸酵母”は、独立行政法人酒類総合研究所と日本盛株式会社の共同研究により開発され、公益財団法人日本醸造協会から頒布されているもの。流通等に起因する劣化臭抑制に有効なほか、熟成酒製造にも有効と思われる。福島大学食農学類の藤井力教授が関与し、吟醸酵母は今年、日本醸造協会から試験販売された。

参考:【慶應義塾大学】被災蔵の酒を新蔵の酒に受け継ぐ日本酒プロジェクトで慶應義塾大学と福島大学が地方酒造と連携

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