東邦大学の山口新平講師(博士)と大阪大学大学院の武智真里奈氏(博士課程)らの研究グループは、近畿大学・大学院、徳島大学との共同研究により、培地成分を正確にコントロール可能で、研究の再現性を高めることができるマウスの多能性幹細胞(ES細胞など)用の新しい無血清培地を開発した。

 さまざまなタイプの細胞へと分化する能力があるマウスES細胞の培養には、これまで主にウシ胎児血清を含む培養液(培地)が用いられており、生産ロット間での血清成分のばらつきが科学的な再現性に悪影響を及ぼすことがある。一方、培養細胞の増殖に必要な因子を補填する商用サプリメントは、化学的成分が非公表のため、培地成分のマウスES細胞の動態・特性への影響を解析できないという課題があった。

 そこで研究グループは、化学的に定義され、情報公開されている成分のみを用いて、新しい無血清培地「DARP(DA-X-modified medium for robust growth of pluripotent stem cells)培地」を開発した。この培地は、ウシ胎児血清成分を一切含まず、マウスES細胞の長期培養に必要な栄養素と環境を備えている。さらに、培地にコレステロールを添加することで、マウスES細胞が持つ特性を損なわずに安定的な細胞増殖に成功した。

 今回の研究成果により、1,000種類以上の成分で構成されるウシ胎児血清や、化学的成分が非公表な商用サプリメントが不要となり、研究者自身が培地成分を正確にコントロールできるようになる。これにより、実験の精度・再現性の大幅な向上や、マウスES細胞の自己複製能・未分化性維持に必要な成分等の研究促進への貢献、さらに無血清培地を用いた持続可能な培養肉生産の技術的進展をもたらすことが期待されると述べている。

論文情報:【Frontiers in Bioengineering and Biotechnology】Development of a chemically disclosed serum-free medium for mouse pluripotent stem cells

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