早稲田大学の三宅丈雄教授らと理化学研究所の美川務専任研究員らは、複数のタンパク質を細胞内に高効率・高生存率で導入できるナノ注射器を開発した。
本研究グループは、これまでに導電性高分子と金属から成る複合ナノチューブシートを開発し、このナノチューブを細胞に刺入することで物質を細胞に届けることができる“ナノ注射器”を開発してきた。
今回の研究では、このナノ注射器を改良することで、これまで細胞内に届けることが困難であったタンパク質を細胞内に高効率・高生存率で導入できるようにした。
開発した技術を用いて、乳酸オキシダーゼ酵素(LOx)を正常細胞とがん細胞に導入する実験を行った。導入効率は共に95%以上を示した。正常細胞では100%以上の生存率を示す一方で、がん細胞内は乳酸濃度が正常細胞の10倍程度高いため、LOxを導入すると酵素反応によって過酸化水素(強力な酸化剤)が生成され、がん細胞は死滅することを確認した。LOxを細胞内に届けない条件では、24時間後にがん細胞は33%残っているが、LOxが細胞内に届けられた場合は、3%まで死滅したという。
また、ナノ注射器を利用して、安定同位体標識タンパク質(ユビキチン)を細胞内導入し、核磁気共鳴分光測定法(NMR法)を用いたNMR解析も試みた。NMR解析には、高濃度のタンパク質が導入された細胞が107個(1,000万個)程度必要となるが、ナノ注射器システムによりそれ以上の1.8×107個の細胞に対しユビキチンを導入し、NMR解析への応用が可能であることを実証したとしている。
このように、本技術では再生医療分野で取り扱うために必要な細胞数である1,000万個以上の細胞に対して導入効率89.9%、細胞生存率97.1%で任意の機能性タンパク質を導入可能であることを確認したとしている。
今後は、この技術を利用して細胞機能改変(ダイレクトリプログラミング)あるいは生きた細胞の中の生体分子を解析する手法である細胞内機能解析(In-cell NMR)の開発に取り組むほか、動物性細胞以外の細胞(植物、酵母、乳酸菌など)への展開も見込んでいるという。