名古屋大学デジタル人文社会科学研究推進センターの岩田直也准教授、桜美林大学リベラルアーツ学群の田中一孝准教授、国立情報学研究所の小川潤特任研究員らの研究チームが、生成AI技術を活用して西洋の古典から正確な情報を引用する対話システム「ヒューマニテクスト」(Humanitext Antiqua)を開発した。生成AIの課題とされる偽情報生成に対処した研究結果で、哲学の祖といわれる古代ギリシャのソクラテスに人生相談することもできる。
名古屋大学によると、2022年のChatGPT登場以来、文章を作り出す生成AIに注目が集まる中、米OpenAI社から2023年に公開した大規模言語モデルは古代ギリシャ語やラテン語を含む多言語での文脈処理、文章生成に非常に高い精度を実現し、人文学分野での利用可能性を高めた。
研究チームはこれを受け、西洋古典学に特化したAI対話システムを開発した。公開されているテキストデータなどを再構成して信頼できる原典に基づいた回答を生成できるのが特徴。現在、ホメロス、ヘロドトス、プラトン、アリストテレスら22人の著者の全作品を原典に文章生成が可能になっている。
ソクラテスに幸せに生きる方法の教えを乞うことができるほか、古代ローマの皇帝で五賢帝に数えられるマルクス・アウレリウスにストイックに生きる方法の指南を受けることもできる。
「ヒューマニテクスト」は言葉の意味を基にした文脈探索が可能で、専門家でなくても、興味に合わせて文学・歴史・哲学の原典を効率よく気軽に参照できる。今後はこのプラットフォームに論文データや辞書、注釈、翻訳などが組み込まれて人文学研究を進化させる。