人工膝関節全置換術(TKA)の施行によって歩行や階段動作といった日常生活の問題が改善される一方で、およそ2割の患者は長引く痛みを経験している。畿央大学大学院の博士後期課程の古賀優之氏、森岡周教授らは、TKA術前・術後の患者が訴える疼痛の性質、とりわけ術後2週の「ひきつるような」という疼痛の性質が、術後3ヵ月・6ヵ月まで長引く痛みの存在に関連していることを明らかにした。
TKA術前・術後の疼痛強度は長引く痛みの関連因子だが、その要因は様々だ。疼痛の性質は痛みの病態理解に重要な情報を提供するため、今回の研究では、術前・術後に患者が訴える疼痛の性質に着目し、術後3ヵ月・6ヵ月の疼痛強度との関連性を分析した。
TKA患者52名を対象に、術前と術後2週の疼痛強度と様々な疼痛の性質を評価し、それぞれを比較した。その結果、「ずきんずきん」や「鋭い」、「うずくような」といった関節炎に由来するような疼痛の性質は、術前から術後2週で(すなわちTKAの施行によって)改善されていることが分かった。
また、術前の「ビーンと走る」、「うずく」、「軽く触れるだけで痛い」、「しびれ」、術後2週の「ひきつるような」といった疼痛の性質は術後3ヵ月の疼痛強度と関連したが、とりわけ「ひきつるような」は、術後3ヵ月・6ヵ月の遷延痛の存在と関連していることが分かった。
TKA術後遷延痛の予防において、周術期の疼痛管理で特に焦点を当てるべき疼痛の性質が明らかとなり、痛みの病態に基づいた介入戦略選択の一助になると考えられるという。今後はこのような疼痛の性質の背景にある運動障害や末梢/中枢神経制御のメカニズムを検証する予定としている。