明治大学と北海道大学大学院の共同研究グループは、日常生活でのマルチタスク状態や臨床での認知機能トレーニングで生じる「二つのことを同時に行おうとしてうまくいかなくなる状態」(二重課題干渉:DTi)に着目し、認知機能の維持・向上のエビデンス構築につながる神経メカニズムを明らかにした。
DTiは、同じ脳の領域を使う複数の課題を同時に行ったとき、神経資源の競合によって生じる能力低下のメカニズムと考えられているが、高齢者向けの課題を若年者が行うと能力低下が生じない場合もあり、詳しい脳活動のメカニズムが不明だった。
今回、右利きの健康な若年成人34名を対象に、DTiのモデルとして、非利き手で渦巻きをできるだけきれいに描きながら、音声で聞いた数字を一つ前の数字と足して連続的に答え続けるという運動・認知の二重課題を用いて、課題成績と脳活動を計測した。
その結果、単一課題条件に比べて、二重課題条件では運動・認知のそれぞれの課題で成績の低下が示され、また、右前頭葉の活動が増加して右前頭から右頭頂皮質への情報伝達(因果的結合性)が増加した。さらに、この情報伝達が二重課題条件時に強くなった人ほど、単一課題条件に比べて計算課題の成績が低下するという関係性が明らかになった。
これにより、DTiが若年健常成人でも起こりうることを示し、また、右前頭葉から右前頭頭頂領域への情報伝達がマルチタスク中の過剰な認知負荷であるDTiのバイオマーカーである可能性が示唆された。今後、高齢者だけでなく、認知機能低下を伴う比較的若年の精神疾患や脳疾患患者、一般人の認知機能トレーニングでもこの脳活動指標の活用が期待されるとしている。