北海道大学の小林国之准教授らの研究グループは、2020年以降の酪農“危機”と呼ばれる酪農情勢の変化について、実際の酪農経営に与えた影響を初めて大規模なデータにより実証的に明らかにした。結果として、2023年には、調査対象地域全体のキャッシュフロー(単年度収益)が2018年と比較して約25億円減少していたほか、可処分所得(キャッシュフロー−資金返済)がマイナスとなっている経営体が地域全体の17.8%におよび、平均マイナス額は1,100万円だった。

 コロナ禍による需要の減退、飼料価格及び肥料価格の高騰などの複数の要因によって、2020年以来、酪農経営は激変し、非常に厳しい状況にある。酪農経営体数の減少が続き、生産量の確保が課題となる中、本研究では、この酪農危機が実際の酪農経営にどのような影響を与えたのか、地域・個別経営の具体的データを使って調べた。

 北海道の草地型酪農地帯に位置するA農協のデータを基に、酪農“危機”が発生する以前の2018年から2023年までの影響を分析した。その結果、地域全体から見た影響では、2018年には101億4,000万円だったキャッシュフローが2023年には75億円に減少していた。農業関係資材全般の価格が上昇し、乳価上昇による乳代収入の増加よりも飼料費等の支出額増加が上回っていた。個別経営への影響については、飼養頭数規模や一頭あたり乳量で区分しても全階層的にキャッシュフローが悪化しており、2023年に可処分所得がマイナスの経営は地域全体の17.8%、平均金額でマイナス1,100万円だった。

 今後は、酪農経営のスタイルが異なる畑地型酪農地帯においても同様の調査を行うことで、北海道における酪農危機の実態と持続的発展に向けた課題の明確化、支援のあり方をより明らかにすることができるとしている。

 本研究は、近年の経済情勢に鑑みると、資材価格への支援は持続性に限界があるとしており、持続的・安定的な酪農経営モデルへの転換に向けた支援が必要であることを提言している。

参考:【北海道大学】酪農”危機”の実態を地域・個別経営レベルで解明~北海道草地型酪農地帯の実態分析から未来の酪農のあり方を展望する~(PDF)

北海道大学

産業界や地域との連携を強固に「北海道大学ならではの実学」が世界をリード

北海道大学の起源は、1876年に設立された札幌農学校に遡る。長い歴史の中で、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」及び「実学の重視」という基本理念を掲げ、培ってきました。 この理念の下に国際的に通用する高度な学問的素養をもち、的確な判断力とリーダ[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。