藤田医科大学の河本聡志講師らの研究グループは、 北里大学の小山ちとせ研究員らとの共同研究により、ヒトロタウイルスの人工合成に世界で初めて成功した。これにより、病原性発現機構の解明や、ヒトに対する安全性に優れた次世代ワクチンや治療薬開発の加速が期待できるという。
乳幼児に重篤な下痢症を引き起こすロタウイルスは、安全なワクチンや治療薬の開発のため、感染性ウイルスを人工合成する技術である「リバースジェネティクス」の構築が切望されてきた。しかし、ロタウイルスは内部に11本もの遺伝子断片を持つため、人工合成した11種類の遺伝子全てを、同時に一つの細胞の中に導入する必要があり、構築は困難だった。2017年にサルロタウイルスを用いて、最初のリバースジェネティクスが開発されたが、このシステムはヒトロタウイルスでは失敗した。
研究グループは2018年に、動物ロタウイルスの11本の遺伝子のうち、2種類の遺伝子(非構造タンパク質NSP2とNSP5)を他の9本の遺伝子の3倍量にして細胞に導入することで、従来の約1,000倍効率良く、ロタウイルスを人工合成できることを見出した。そこで今回、ヒトロタウイルスの11本の遺伝子のうち、NSP2とNSP5遺伝子を他の9本の遺伝子の3倍量にし、さらにロタウイルス胃腸炎患者便中のウイルスを効率良く分離する技術(高濃度のトリプシン添加と回転培養)を利用することで、ヒトロタウイルスの人工合成に成功した。
今回の成果により、ヒトロタウイルス遺伝子の自由自在な改変が可能となり、自然なヒトロタウイルスの感染・増殖・病原性発現の機構を再現できるため、ヒトに対する安全性に優れた次世代ロタウイルスワクチンや治療薬の開発が飛躍的に進むことが期待される。