コンピュータを介したオンラインコミュニケーションツールでは、物理的距離が離れた面識のない人同士の心理的距離を縮めることが期待されるものの、往々にして「一緒に居る」と感じる度合い、すなわち社会的存在感が不十分であることが指摘されている。
eスポーツを含むオンラインゲームも同様である。オンラインゲームでは、対面のコミュニケーションで共有されるような私たちの身体性に根ざした生体信号(心拍数や手汗など)を共有できないため、社会的存在感が形成されにくく、他のプレーヤーと空間を共有していると感じられる没入体験が得られにくいのである。
そこで今回、筑波大学の研究グループは、オンラインゲーム時にプレーヤー同士が心拍数などの生体信号を共有することが、社会的存在感の形成を促進するかどうかを検討した。生体信号と顔画像をゲーム画面にリアルタイムに表示できるプラットフォーム「BioShare(バイオ・シェア)」を開発し、面識のないプレーヤー同士のバーチャルサッカーゲーム対戦においてそれぞれ異なる条件で社会的存在感を得られたかどうか尋ねた。
実験は、①相手と対面するオフラインプレー(対面条件)、②相手に関する情報を一切得られないオンラインプレー(オンライン条件)、③相手の顔のビデオが表示されるオンラインプレー(顔のみ条件)、④対戦相手の心拍数が表示されるオンラインプレー(心拍のみ条件)、⑤相手の顔と心拍数が表示されるオンラインプレー(顔+心拍条件)の5条件で実施した。その結果、顔+心拍条件の社会的存在感は、対面条件とほぼ同等レベルまで高まることがわかった。またこの時、プレーヤーの視線は、顔や心拍数の表示を確かに見ていることが、アイトラッカーの分析からわかった。
以上の結果から、生体信号を共有するとオンライン環境における社会的存在感が引き出され、「共にプレーした感覚」が高まることが明らかとなった。本研究成果は、他者との心理的距離を近づける次世代のオンラインコミュニケーション開発に寄与することが期待される。