名古屋大学大学院情報学研究科の吉田久美教授らの研究グループは、弘前大学、名城大学との共同研究で、赤小豆の種皮から純粋な色素を取り出し、その構造決定に世界で初めて成功した。これは花や果実の色素としてよく知られているアントシアニンとは異なる新規物質で、この色素が餡(あん)の紫色を担うことも分かった。
赤小豆の種皮色素の研究は歴史も古く、1934年に理化学研究所の黒田チカらが水不溶の色素と褐色のタンニンから成ると報告している。その後、研究が多数行われたが、種皮色素の化学構造やその性質は全く不明だった。その上、その色素の基は金時豆にも含まれているアントシアニンであるといまだに誤解されている。
今回、赤小豆から2種類の紫色色素を取り出し、立体配置を含めて完全な構造を決定した。それはカテキンとシアニジンがピラン環(酸素を含んだ6員環)で結合(縮環)した新規物質であることが判明し、「カテキノピラノシアニジンA、B」と命名された。この色素は水にはほとんど溶けず、強酸性(pH1)から中性(pH5)で美しい紫色になる。また、色素溶液は室内光のような弱い光でも分解されるが、暗い所では安定で分解されない。さらに、赤小豆から調製した餡にもこの紫色色素が含まれることがわかり、餡の紫色はこの色素によることが証明された。
小豆を煮る時、通常は渋切りを行う。これにより水溶性で茶褐色のタンニンが除去され、この間に色素が餡粒子に吸着して、無色だった餡粒子は紫色に着色される。この製餡工程の合理性も色素の化学的性質から理解できる。今後は、高級な紫色餡を得る方法や小豆の新品種の育種への応用が期待できるとしている。