東京薬科大学生命科学部の原田浩徳教授、立命館大学薬学部の林嘉宏教授らの研究チームは、進行がんでしばしばみられる“痩せ”(悪液質)を引き起こす免疫細胞を世界で初めて同定した。

 がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子性の症候群」と定義され、全身性の炎症に伴う筋肉の減少を呈する病態である。がんの種類を問わず、進行がん患者の80%でみられ、死因の30%前後も占める。

 未だ明らかとなっていない悪液質の発症機序を解き明かすため、本研究チームは、慢性骨髄単球性白血病(CMML)という血液のがんに着目し、CMMLのモデルマウスを詳細に解析した。CMMLでは、免疫細胞の一種である単球が持続的に増加し、体重減少や筋萎縮が生じる。これら単球を調べた結果、健康なマウスではみられない特殊な単球が、筋肉の減少を引き起こすIL36Gというサイトカインを分泌していることを突き止めた。

 発見した単球をCachexia-inducible Monocyte(CiM)と名付け、乳がんや皮膚がん、大腸がんや腎臓がんでも、がんの進行にともなってCiMが出現することを確認した。筋肉の減少を引き起こすCiMの出現が、がんの種類を問わず、悪液質に共通した普遍的な現象であることが示唆されるとしている。

 さらに、さまざまな種類の進行がんマウスで、単球のIL36G産生を抑えたり、筋肉のIL36受容体を阻害するなどの方法で、CiMが分泌するIL36Gのはたらきを阻害すると、悪液質の発症が抑制されることがわかった。

 本研究成果は、未だ有効な治療法が存在しないがん悪液質に対し、CiMやIL36Gを標的とした新たな治療法開発につながることが期待される。

論文情報:【Nature Communications】IL36G-producing neutrophil-like monocytes promote cachexia in cancer

大学ジャーナルオンライン編集部

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