東京大学の研究チームが、慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia、CML)の治療薬であるニロチニブの治療効果を、患者ごとにかつ早期に予測する数理モデルを開発した。

 ニロチニブはBCR-ABL1チロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor、TKI)の一つで、CML細胞の増殖を阻害する効果をもち、多くのCML患者の予後を改善する治療薬である。一方で、TKIの効果には個人差があることも知られ、投与中のTKIの効果が乏しい場合は、別のTKI(ニロチニブのほかにイマチニブ、ダサチニブ、ボスチニブの選択肢がある)への切り替えを検討する場合があることから、TKIの効果を患者ごとに早期予測する手法が求められてきた。

 そこで本研究者らは、ニロチニブ投与開始時と開始後3、6ヶ月目の国際標準(International Scale、IS)値および末梢血中の総白血球細胞の量から、ニロチニブ投与開始後2年以内にCML患者が“深い奏効”を達成するかどうかを推定する手法を構築した。IS値は末梢血中の総白血球細胞の量に対するCML細胞の量の割合に対応する値で、一般的な血液検査で測定することができ、深い奏効もIS値によって定義される。

 IS値と末梢血中の総白血球細胞量から、末梢血中の正常な白血球およびCML細胞量の時間変化をシミュレーション可能な常微分方程式モデルを開発し、さらにCML患者を対象とした臨床試験“N-road study”の時系列データをもとに、2年以内に深い奏効を達成した患者と達成できなかった患者を分類するパラメータ値の境界を求めた。この数理モデルを用いて、予測対象患者の治療開始から6ヶ月目までのデータから推定したパラメータ値を分類境界にプロットすると、約94%という高い正解率で深い奏効の達成有無を予測できたという。

 一般的な血液検査データのみを用いて、6ヶ月という短期間で、ニロチニブの治療効果(2年以内に深い奏効を達成できるかどうか)を患者ごとに予測できる可能性が拓かれたことで、患者ごとに治療法を最適化するCMLの個別化医療実現に向けた展開が期待される。

論文情報:【npj Systems Biology and Applications】Early Dynamics of Chronic Myeloid Leukemia on Nilotinib Predicts DeepMolecular Response

東京大学

明治10年設立。日本で最も長い歴史を持ち、日本の知の最先端を担う大学

東京大学は東京開成学校と東京医学校が1877(明治10)年に統合されて設立されました。設立以来、日本を代表する大学、東西文化融合の学術の拠点として、世界の中で独自の形で教育、研究を発展させてきました。その結果、多岐にわたる分野で多くの人材を輩出し、多くの研究成[…]

東京医科歯科大学

医学・歯学の緊密な連携の歴史と実績を礎に人間性豊かで、優秀なグローバルな医療人を育成

日本で唯一の医療系総合大学院大学として、医学・歯学の領域において、世界を舞台に活躍できる人材、幅広い教養と豊かな人間性、高い倫理観、自ら考え解決する創造性と開拓力、国際性と指導力を備えた人材を育成。優秀な教員と最高の設備、そして世界水準の特色あるカリキュラムを[…]

福井大学

21世紀のグローバル社会において、高度専門職業人として活躍できる優れた人材を育成

福井大学は「格致によりて人と社会の未来を拓く」を理念に掲げ、学術と文化の拠点として、高い倫理観のもと、人々が健やかに暮らせるための科学と技術に関する世界的水準での教育・研究を推進し、地域、国及び国際社会に貢献し得る人材を育成。教育・医学・工学の分野において、地[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。